9月定例会と小説リレー
9月25日、オンラインで定例会を開催しました。
議題は「来年5月に発行する同人誌のテーマについて」。今回決めたテーマをもとに、来月は各自作品の大筋を持ち寄ります。決定したテーマは追ってお伝えしたいと思います。お楽しみに。
定例会のあとは小説リレーを行いました。
各自が用意した書き出しに続けて、別のメンバーが順に小説をつなげていきます。
四つの作品ができましたが、ここではそのうちのひとつを紹介したいと思います。
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【書き出し】
「どうですか、先生?」
不安げな視線を投げかけてくる家族がいる。彼らに向かって、大槻は首を振った。
「まあ助からんでしょう。ここへ来るのが遅すぎた」
重い沈黙が流れる。人々の横で、機械だけが無機質な電子音を響かせていた。
【続き①】
娘さんがわっと泣き崩れる。その背中を夫が優しくさする。
大槻はこの仕事に就いて30年のベテランだし、こういう場面には何度も向き合っているが、やはり人の死とは慣れないものだ。
大槻は目をそむける新人看護師の肩をたたき、部屋から出ようとする。
「わっ」
扉を開くと、そこにはどうやら扉の隙間からジッと中をのぞいていたらしい男の子が立っていた。
【続き②】
「あし」と男の子はこそこそと呟いた。
「足?」と大槻は聞き返した。さも当然のように覗いているから彼を注意しなければならなかったが、それも忘れて男の子をじっと見据えた。おかっぱ頭で漆黒の髪。切れ長の目と乳白色の鼻筋の通った面立ちが印象的で、夏祭りに着ていくような青い甚兵衛を身につけていた。背丈は小学三年生くらいで、あまり快活そうなイメージはなかった。
「左あしにあくまがいる」
はてな、と思いつつも、大槻は長年の経験と勘から、「もう一回左足を見せてください」と搬送されてきた大柄な老爺のパジャマをまくり、左足を露出させた。大槻の豹変ぶりに、皆慄然としていた。
【続き③】
老爺の左脚の膝の上に不自然な膨らみがあった。
「この瘤は?」
付き添っていた家族は互いに顔を見合わせる。「どちらが答える?」と目顔で相談しているように、大槻には見えた。
それも束の間、夫が答える。
「その瘤は良性の腫瘍です。もう何十年も前から別の病院の先生に見てもらっていて、悪いものじゃないからそのままにしておいて問題ないと言われているものです。今回のことには関係ないと思いますが……」
「なにがどう関係しているか分かりません。ご家族の了承さえ得られれば、手術で切開してみたいと思いますが」
家族の様子がおかしい。先ほどまで泣きじゃくっていた妻が、涙を拭きながら言う。
「でも、もう十分頑張ったから、これ以上の処置はしなくてもいいんじゃないかしら」
「先ほどは『助かるためならなんでもしてください』と仰いましたよね?」
「ええ……」
半ば強引に大槻は手術に踏み切った。
老爺の左脚の瘤からはSDカードが出てきた。
記録されていたのは二十年前の事件の証拠写真だった。
この家族はある縁日で少年を誘拐し、監禁した末に死に至らしめたのだった。
老爺は死に、家族は逮捕された。
大槻はその後二度と青い甚平の男の子を見なかった。
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いかがでしょうか。
書き出しを書いたときには想像もしていなかったところに話が落ち着いたり、自分が考えていたことと違う受け止め方があったり、なかなか面白かったです。
みなさんだったら、このあとどうバトンをつなげますか。